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百鬼夜行~怪談ロマンス~ 総合雑感

QuinRoseの怪談ロマンスシリーズ第二作目、百鬼夜行~怪談ロマンス~の総合雑感です。
先に感想を一行で包括するなら、「乙女ゲーとして手堅く萌えを詰め込んだ作りだが、個人的な好みには合わなかった」かな。
前作逢魔時と比べると、ダークさや妖怪らしさ、話の完成度は下降、糖度と大人向け加減は上昇。
よく練られた世界観や作りこまれたお話を好む人にはオススメしません。
キャラ萌えや恋愛シーンの甘さ、エロさを重視するなら悪くないかも。
主人公の性格に多少クセがありますが、王道より少々斜に構えた感じが好みで、「愛の無い家庭で育った女の子が恋愛を通じて前向きになる」という概要にピンとくるなら楽しめる作品だと思います。
妖怪設定はほぼファッションなので期待しちゃ駄目だぞ!

※以下ネタバレ注意


全体感想

キャラ萌えや糖度は十分。反面、物語重視派には物足りない。
世界観は好みによりますが、妖怪らしい神秘性、怪奇性を求めると肩透かしになる可能性大。
ちょっと動物に変身出来たり、魔法が使えたり、猟奇的な性格の人が多かったりするだけで、妖も人と大して変わらない。
現代が舞台であること以外はよくあるファンタジー作品と同じです。
怪談ロマンスシリーズの2作目ではありますが、前作と違い、敢えて「妖怪」を題材にする必要性は感じませんでした。
キャラ萌えもQuinRose作品に慣れている人ならそこまで目新しくないかもしれない。
ですが糖度は間違いないです。今作は恋愛に抵抗がない主人公なので、遠慮無く砂が吐けるよ!

全編通して気になったのは、モブの扱いを始めとする主人公側に都合が良すぎるアレコレでしょうか。
特にモブの描写は酷かったです。舞台装置以上でも以下でもないため、陰口や野次にリアリティが感じられず、主人公である憂の苦悩に共感することが出来なかった。ラブシーンで遠巻きに出てくる野次馬や主人公に絡む不良(全部で10人くらいいた)も言うこと皆同じでなんだかなあ。特に不良は憂に絡む→攻略対象に撃退される→こいつら人間じゃねえ!までが常にワンセットになっていて、正にこの一連の流れをこなすためだけに生まれてきたと言っても過言ではないでしょう。お仕事ご苦労様です。
そして余りにご都合主義が過ぎると、今度は「ベタよね」「作為的なものを感じる」等と主人公自身に突っ込ませて終わらせてしまうので、ただでさえ薄い世界観がハリボテのように見えてきます。そこをなんとかするのが作り手の腕の見せ所じゃないのか!

モノ申したい部分は他にも沢山あるのですが、先にも書いた通り、作り自体はかなり堅実です。
話が破綻しているところもなく、あるべきものをあるべきところへしっかり纏める。
乙女ゲーとして肝心な恋愛面はさすがによくできてました。いい意味で予想を裏切られたことも多々あった。
悪くないです。悪くないけど、もう一声欲しかった!もうちょっと作り込んで欲しかった!というのが正直なところ。
エロやバイオレンス以外の面でももっと冒険して欲しかったな。
無理矢理起伏を作ろうとして崩壊するよりはマシなんだろうけど、淡々と進み過ぎるのも面白くない。
特徴となるエロやバイオレンス表現も、アラロスやハトアリの頃から変わらないか、更に簡略・象徴化された定形だしなぁ。
世界観やシナリオに深みが足りないのに、そこだけ過激にされても反応に困る。
特にラブシーンにはもう少し上品さが欲しかったです。所々(色んな意味で)欲望丸出しすぎて引いてしまった。
単にキャラがキャラ自身の性格に基づいて盛ってるだけならまだいいんだが、あまりにもパターン化しすぎていて個性らしい個性が感じられない。確かにヘタレよりは強引に迫るタイプの方が受けるだろうけど、だからって全員エロおやじにしなくてもいいだろ!
それなら憂姫様の強すぎる妖力が魅力に転じて傍に寄った男達が辛抱たまらん状態になるとかいうトンデモ設定があった方がまだスマートかつ面白そうだ!

他の女子との比較シーンでも度々思いましたが、乙女ゲーとして堅実=主人公(プレイヤー)に都合が良すぎるのも考えもの。
金も力も持ったイケメンが我も我もと病むレベルで執着し、互いに攻撃し合いながら無条件でチヤホヤしてくれるなんて、ハトアリのアリスじゃないけど気持ち悪い世界だと言う他ない。アラロスやハトアリはその違和感を世界観設定やシステム、主人公自身の気質・言動でうまく回避してた(と思う)が、百鬼夜行にその工夫は感じられなかった。
たしかにチヤホヤされるのは楽しいし、執着・嫉妬・エロ等の際どいキーワードを羅列されると「おおっ」と思うけど、もっと主人公は主人公、お話はお話として独立し、作り手によるプレイヤーへの接待を意識せずに遊べる作品のほうが私は好きです。



各キャラ感想


▼宮前 慎二

思ったより憂との関係が穏やかだった従者系メインヒーロー。
病んでなかったよ!やったね! それっぽい言動はあるが、元人間のためか根は健全。
俺がいなかったら、生きていけないようになればいい」という台詞は若干歪んでいるが、関係が関係だし、単なる慎二の希望止まりなのであまり気にならない。効力を発揮するとしても本人ルートだけで、それは憂自身も望むところだろう。
抑揚に欠けた喋りで繰り出される毒舌とそれに伴う嫌味応酬が楽しかったです。口端をひん曲げた皮肉笑いの立ち絵がまた良い。
残念だったのは本編開始時には既に片思い状態だったこと。
死人化した直後の、お互い距離を測りかねてるところから順を追って見ていきたかった。
ゼロ、或いはマイナスからプラスへの転換ほどカタルシスを覚える瞬間もあるまいよ!
それこそ最初は依存させてから放り出すつもりでも良かったんじゃないか?
片想い前提でも、ルート終盤まで見る側が疑心暗鬼になるくらい徹底して隠していたら面白かった。
ドラマに出来る下地はあるのに、終始淡々と過ぎていくのが惜しい。
今のままの慎二でも魅力的だし、変に拗らせる必要はないんだけど、OPで丸分かりはさすがにひどい(笑)
とはいえ、恋愛模様は自然でよかったです。
慎二の方が大人でズルくて、憂の子どもっぽい潔癖さと直情さをうまくカバーしていた。逆もまた然り。
業という名の絆を勘定に入れなくても、慎二は憂にとって最も収まりの良い相手だと思う。
FD買うなら慎二の為に買います!



▼龍田 恭介

不憫。という一言がまず最初に出てくるデフォルト片想い枠その2。
始めから憂のために何かしら背負い込んでるだろうことは分かってたが、背負い込んでるものが予想を超えていた。
その上バレないよう大好きな憂から距離を取り、更に自分が泥被る形で暗躍するってお前は妖怪じゃなくて菩薩だ!
彼が育った家には男はすべからく惚れた女の為に命を捨てるべし的な家訓でもあるんじゃなかろうか。
上記の裏事情を知った上で他ルートをプレイすると、恭介が出てくるたびに(´・ω・`)ショボーンとしてしまう。
共通イベント含めて毎回頑張ってるからな! 何故憂は気付かないのかと問いたい。何故ってそりゃ鈍いからだけど。
恭介は恭介で嫌ってる素振りを見せてる割に所々詰めが甘いのだが、これも憂の鈍さを知っててやってるんだろうか。
せめて常に傍にいる慎二くらいは気づいてもいいんじゃないかな。他の攻略対象全員に生温い羨望と感嘆の眼差しで見られるのもそれはそれで不憫だが…… うーん、死神二人に留めておいてやって欲しい気もしてきた。
しかし不憫は不憫でも、恭介自身は心底好きでやってるのがよく分かるので、これはもう天晴と言い換えたほうがいいかもしれない。
開き直ってからの怒涛の攻勢は逢魔時の遠野を思い出させました。心が強すぎるよ君は!
身も心も強くて一途で幼馴染でその上軽いギャップ持ち、すぐ照れて狼狽するが攻めるところは攻める。
向かうところ敵なしすぎて慄きます。ラブシーンの雰囲気も恭介が一番よかった。
憂が慎二と出会っていなかったら、今頃恭介は正攻法で憂を落としていたんじゃないかと思う。
いや、一旦距離を置いて冷たくしたのが功を奏したのか?
憂の初心さからして、最初は弟扱いでも強引に迫って愛を囁き続ければ遠からず落ちる気がするが……甘く見過ぎかな。
彼には幸せになって欲しいが、それは慎二も同じなのが悩みどころ。あちらを立てればこちらが立たず!



▼椿 宗次郎

外見、性格、話の内容、どれも一番好みでした。(不良成敗以外は)
攻略対象の中では初期の立ち位置が最も遠かった気がします。それでも多少なりと好感は持たれていたようなのが凄い。
椿の好きなところは、まず常識人なところ。あと手下のネズミ含め、いい意味で「妖らしい」ところ。
全体的に「妖らしさ」が欠落していた百鬼夜行の中では最もそれっぽかったと思います。お婆さんを切っ掛けとして「人との違い」を語ることで、その境目が引き立った。逢魔時の彼らの話が出たのも影響したかもしれません。
これだけだと相対評価だけど、スッキリした見た目や落ち着いた物腰、憚らない愛情表現も好きでした。
同じ死神で、他者に対して情が薄そうな響乃が懐いているのも納得。
それだけにCGの残念さが惜しかったです。立ち絵は綺麗なのに勿体無い!
これといった癖のない、美少年らしい美少年だと思うんだが、そのぶん崩れやすいのかな。
イベントの中では終盤の踏切シーンが印象的でした。憂には慎二を優先して欲しいが、椿の心情を考えるとなぁ。
椿自身、憂(と慎二)について大部分の事情を知っているからこそ思うところも沢山あっただろう。
それでも最後には憂の意志を尊重してくれそうなところがまた切ない。
まぁFDでは監禁とかそっち方面に走っちゃったっぽいけどな! ベストENDで予想された展開ではありました。
監禁と言っても、憂に無体なことは絶対しないだろうと確信できるのが椿らしい。
命の終わりに関して明確な答えが得られるなら見てみたいです。



▼響乃 武蔵

物騒な言動の目立つ百鬼夜行キャラの中でも頭ひとつ抜けて物騒な人。
正直、本人ルートより椿や慎二など他キャラルートのアシスト役で輝いていた印象が強いのだが、クリスマスのシーンは結構好きだった。初心な女の子を誑かす悪いお兄さんだけど、彼なりに憂を大事にしようとしていたのだろう。
普段おちゃらけた言動が多いせいか、好きな人を殺したくなる「死神の特性」とやらがピンと来なかったのが残念。
椿ルートで改めて説明されたので、もう一周したら違った感想を持てるかもしれしれません。
そういえば、憂の命に関して響乃も椿と同じ問題を抱えているはずだが、向き合い方はまた異なるんだな。
「怖がる」というリアクションに対し、椿は堪えて憂から離れることを選んだが、響乃は無理矢理命を奪ってしまった。
同じ死神である両者の違いは何処にあるんだろう。椿が特別優しかったのか、響乃の諦めが良すぎたのか。
憂への好意は本物だっただろうから、「そうじゃないなら、もういりません」という一言が悲しい。
ベストENDでも殺したい衝動は相変わらずだし、恋愛面でも憂を振り回しまくるので、恋人としては正直どうかなーと思います。
周囲への見せつけもプレイヤー的にはアウト。響乃に限らないが、往来でいちゃいちゃするならせめて人間には見えないように姿を消して欲しい。野次馬の台詞も読んでて居たたまれなかったよ!静ならブン殴ってるぞ!
椿とくっついた上で友人として接するなら楽しそうなんだけどな。選択肢次第で見られる修学旅行の一幕がよかった。
ENDを迎えても響乃のことはよく分からないままだったけど、素の彼はかなりクレバーなんじゃないかと思います。
殺したい衝動に限らず、憂に接している彼は相当自己を抑圧してると思う。
箱入りお姫様に逃げられたくない一心で暗い部分、残酷な部分を隠している印象を受けました。
今までのRose作品だったらアラロスのロベルトに近いかな。「普通」になりたいアイリーンの為に、彼も意識して王子様を演じていた。
いや、でも響乃の場合、自分がひた隠しにしているというより、憂に目隠しをしていると言ったほうが正しいのか?
うーん、わからん。彼について深く知れるならFD買うのも悪くないかも。
まずは種族を教えてくれ!



▼寒澤 流

正直なんと書きだしたものか困ってしまうほど自分の中で印象が薄い先生。
途中まで消極的で、憂の方が押せ押せで目立っていたせいかもしれないが、どうも個性らしい個性が無かった気がする。
あとED終盤の当てつけ行為。あれを「シナリオの都合」と思い込むことで更にキャラが薄まってしまった。
思い込まなかったら思い込まなかったで今度は嫌悪感が吹き出してしまうので、それよりは薄いままの方がいいのかな……。
妖怪の氷女(雪女)には個人的に思い入れがあるんだけど、寒澤先生には殆ど「らしさ」を感じませんでした。
というかそれ以前に「妖らしさ」もなかった。確実に車がいけない。
親戚枠にしても、憂の為なら人知れず犠牲になることも辞さない恭介と比べるとパッとしません。
プレイ前に期待した「妖の学校の先生」という部分も特に面白味なかったし……教師としても親戚としても妖としても中途半端で、止めにあのエロ親父ぶりだ。職員室はさすがにドン引きしたよ! 最中は仕事場に入れなかったであろう他の先生が可哀想過ぎる。
ヘタレならヘタレで最後までそれを通して欲しかったな。ヘタレと思ったら意外と黒くて強引なとこもあってドキドキ☆枠は既に由良城がこなしてるから! しかも由良城は恋人ポジションを勝ち取るまで捨て身レベルで頑張ってたけど、先生は逃げてただけじゃないか! その状態で響乃や慎二に勝ち誇られても「ハァ?」って思っちゃうよ!
先生なのに憂に対してだけ特別扱いが目立ったのも頂けなかった。いくら教え方が巧くても、こんな先生には師事したくない。
外見も特に好みではないので、マイナスポイントばかり積み上がっていってしまってこの評価です。
押せ押せの憂は潔くて好きだったんだけどな。終盤逆転してからは本当に苦痛だった。
嫌い……と思えるほどの拘りはありませんが、現時点では興味の持ち辛いキャラクターです。



▼飛浦 若葉

「飛浦」と書いて「横槍」と読む火遊び担当。
登場キャラの中で唯一憂の素顔を知らない人ということで、お互い探り探りの交流が楽しかったです。
打ち解けるのが若干早すぎたような気もするが、イベント数的な問題と、後は飛浦くんの好青年ぶりが憂の警戒心を解いた為だろう。
滝に遊びに行くエピソードはCGも綺麗だったし、憂も楽しそうでよかった。
しかしさすが前作飛浦さんの従兄弟だけあって、ENDではやってくれました。
まぁそうだろうなーと納得しつつも、最後まで好青年でいて欲しかった複雑な乙女心。
要約すると、彼氏持ちの女の子に横恋慕して奪いに来るクラスメイト、口では「あなたは友達」と牽制しつつも最後までは拒否しきらない彼女、結局キスまでしちゃった!って終わり方なんだが、なんだろうこのどうしようもない感じ。
三角関係浮気二股は恋愛ものの華かもしれないが、もうちょっと葛藤があってもいいと思うな!
憂の面倒くさい性格も憂の(独占欲がヤバい)恋人のことも承知のうえで修羅場につっこんでいく飛浦くんには勇者の称号を贈りたい。
頑張れ、火遊び担当! 出来れば「実はメインキャラと堂々渡り合えるくらい強かった」みたいな設定出すのはやめてね!



▼明日馬 兵太

正真正銘の火遊び担当。(物理的な意味で)
恋愛的な意味でもかなり火遊びっぽかったが、まぁ兵太かっこいいからね……仕方ないよね……(贔屓)
腹黒でもエロ親父でも独占欲オバケでもない真っ当な男子として、恭介と並ぶくらい好みです。
途中わざわざ憂と多恵ちゃんを比較した挙句、それを口説き文句として憂に告げたあたりはカチンときたが、逆に言えば引っかかったのはそこだけ。横恋慕についても本人が一線引いて切なげに葛藤してるからあまり気になりませんでした。
逆に憂が葛藤しなさすぎ流され過ぎでどうかと思った。
憂姫様、自分のこと見て優しくしてくれる人なら誰でもいいんじゃあ…… いや、それはそれであるあるだけど、でもそういう人と恋人関係になったあと、同じような人にフラフラするのはどうだろう。友情や妖の性といったワードで誤魔化すにも限度があるよ!
せっかくいいキャラ、いい設定なのに、立ち位置やシナリオで殺してしまっている気がして惜しい。
触れ合うと発火する」という特性についても、本編では言葉以上のことは分からなかったのが残念でした。
何故憂だけなのか、他にそういった反発現象が起こる妖はいないのか、妖力を遮断する方法は無いのか等々、疑問が山程あったんだけどな。多分そこまで深く考えられてないんだろうけど、兵太が攻略対象に昇格したFDではどう説明されているのか気になります。



▼姥爪 多恵

元気いっぱいな猫又の女の子。
主人公を溺愛し猫可愛がりする点では前作の親友和歌子と似通っていますが、印象は少し違いました。
和歌子は元々女の子に甘いし、静に懐いたのも彼女自身の強さや勝気さ、特異性に惹かれた為だったけど、多恵ちゃんは何故そこまで憂が好きなのか、何故そこまで憂を持ち上げるのか、本編だけではよく分からなかった。
その捻くれたところが可愛い!的なことは言ってたけど、だからってあんなにべた褒めするほどか?と思ってしまう。
本人も自覚していたが、憂の性格はとても同性に好かれるものじゃないし、欠点も沢山ある。友達ならそこをきちんと正しつつフォローして欲しかった。今の多恵ちゃんはひたすら憂を肯定し甘やかしているだけで、与えられた役割以上の個性は感じられませんでした。
まだ椿と喧嘩している時の方が生き生きして見えたかな。
あれも椿がネズミってだけで酷い突っかかりようだが、そこは種族に起因する好悪だから仕方ないってことで納得できる。
猫っぽいところは可愛かったけど、もっと「猫又」という妖怪らしい側面も見てみたかったです。
猫耳と尻尾生やしてお魚お魚言わせりゃいいってもんじゃねーぞ!(本音)



▼龍田 憂

寂しがり屋でとても情が深い女の子。
子どもゆえに他者の鼻につきやすい態度をとることもあるが、子どもゆえに柔軟性があり成長が見込める。
恋愛には初心で、自分の恋心には素直。慣れた相手に振り回されることも多いが、主張はきちんと行う。
親を除く対人関係においては悩むより先に行動するタイプ。勉学に関する努力は欠かさない。
竜神の姫としての自負が強く、プライドも高いが、他者に姫として認められたい一方、そこから解き放たれたいとも思っている。

……と、プレイしながら感じた印象を羅列すると、本編中のアレでソレな言動にもだいたい納得がいきます。
ひたすら主人公に都合よく回る百鬼夜行の世界には歪んだものを感じるが、憂自身はそうでもない。
長所も欠点もある一人の人間として、リアリティのあるキャラ造形に仕上がっていると思います。
その上で引っかかった点を二つ上げるとすれば、「全然妖怪らしくない」点と、「素顔がどうこう言えるほど演技してない」点か。
特に後者は誰に目撃されてもおかしくない学校内でメインキャラ相手に素を出しまくってる時点で片手落ち感がすごい。
慎二との毒舌応酬とか、通学路や校内で普通にやってるけど「いいのかそれで?」と思ってた。
妖怪なんだから、人より遥かに耳が良い種族がいてもおかしくない気がするんだが……。
人間型じゃない小さな目立たない妖怪や、姿の見えづらい妖怪、高所を移動する妖怪だっているだろうし……。
等と考えていくと前者の不満点に帰結してしまうのだが、仮に完全な人間世界の話であったとしても粗忽すぎる。
何度かモブに陰口を叩かれてムッとするシーンがあったけど、「これだけ衆目を集める立場なのにバレてないってかなりご都合主義だな」と思って入り込めませんでした。もっとこう、学校では完璧に素を隠しきり、やむを得ず出す時は結界を張る、とかじゃ駄目だったんだろうか。屋上や裏庭での密会なんて、西乃高校に新聞部があったらスッパ抜きまくりのいいネタだろう。
前者の問題点に関しては今更なので割愛しますが、憂の人物造形はしっかりしてるだけに惜しいなあと思います。
どちらもシナリオの説得力の問題なのがまた、ね……。主人公だけに目につく箇所が多くて損している気がする。
一つ一つは「ゲームだから」で流せても、それが山と積もれば嫌になるいい例かも。

憂自身に関しては、個人的な好き嫌いで言うなら「嫌い」なのかなぁ……多分。
そこまで強い嫌悪はないけど、似た性格の人が身近にいたら極力近寄りたくないと感じる以上、少なくとも好きではないんだろうな。
ところどころ可愛い、すごいと思う部分もあったが、嫌だと感じる部分はそれ以上に多かった。
子どもだし、器は小さいし、そのくせ言うことは偉そうだし、他人をナチュラルに見下すし、自分のことばっかりでうざったいし、コンプレックス塗れで卑屈な上に攻撃的だし、そりゃ仮面の一つも被らないと集団生活やってけないだろう。まぁそれは本人も解ってるからいずれ成長するんだろうと思ってたら、真相ENDでやっと一歩踏み出しただけって、曝け出した欠点のわりにささやかすぎるよ!
力も権力もあるのに男に助けて貰わないと何も出来ない、悪い意味でお姫様なところも好みじゃないです。
私はもっと自立した強い女性が好きだ!過去にプレイしたRose作品の主人公みたいなしっかりした子たちが好きなんだ!
ハトアリのアリスもコンプレックスを抱えた卑屈な主人公だったけど、憂よりはずっと成熟していたと思う。
彼女には自分の領分を自分で守ろうとするだけの気概も、それを実行する行動力も、自ら身を立てて生きていこうする覚悟もあった。優等生の仮面だって憂よりずっと巧く被っていたし、卑屈な自分を変えるために努力することを諦めていなかった。
憂の場合、自分を変えることにはそこまで熱心じゃないし、むしろそんな「ありのままの自分」を愛して認めてくれる男が現れたらそれで満足してしまうところがあるので、見ていて「色々と甘いな……」と感じる。真相ENDはまだマシだけど、寒澤ENDとか本当にどうしようもなかった。あれは憂にとっては成長の機会を奪われるという一種の虐待なんじゃないかとすら思う。
慎二の件にしたって、「傷つけられる覚悟はしている」と言いつつ、やったことと言えば右も左も分からない慎二に選択肢を丸投げして済ませただけ。「責任」にしたって、果たす果たすと言うわりに、不意に死ぬことのないよう自衛の努力をするわけでもない。いつまでも真相を告げられずにぐずぐずしていたのだって、単に勇気が出なくて現状に甘えていただけ。死人にされた当事者である慎二の気持ちはお構いなし。本当に自分のことばっかりで無責任な子だ。おまけに禁忌によって発生した罰は恭介という名の王子様が大半肩代わりしているというオチまでついたし、プレイヤーの心証は下降の一途です。
育ち方からしてこうなるのは仕方ない。親が悪い。解ってるけど苛々してしまう!というのが正直なところ。

ただまぁ嫌いであっても思い入れはあるので、憂には父親の呪縛を逃れて幸せになって欲しいかな。
このまま竜神の跡継ぎになって多くの人(妖)を束ねる生き方は彼女には向いてないだろうから、結局は好いて好かれた男に守られて慎ましく暮らすのが一番いいのかもしれない。
もちろん彼女が今後「神」の名に相応しく成長し、一族の長(ないしその伴侶)として誇りをもって振る舞えるようになるならそれに越したことはないのだが、今の彼女にそこまで求めるのは少し酷な気がします。
冷めて捻くれた部分を剥がした時、内にいるのは幼い女の子だと思うから余計に。
とはいえ妖怪の生きる時間は長いので、まるっきり不可能ってことはないだろう。
幸せならどんな未来でも構わないけど、出来れば「竜神の姫君」というフレーズに惹かれていたプレイヤーのためにも(笑)大空を自由に舞う龍の姿を見せて欲しいな、と思います。



後書き

自分基準ではかなり辛口な感想になってしまった……。
怪談ロマンスシリーズには1作目の逢魔時から入ったのですが、続編ゲーの感想って難しいですね。
前作のイメージに影響されて単体評価がしづらいというか。
前作が好きだったので、不必要に厳しくなってしまったところもあるかもしれません。
逢魔時も決して大絶賛される出来ではなかったと思うんだが(ごめんなさい)、キャラや物語がクリティカルで入ったぶん、どうしても贔屓してしまうんだろうな。難しいです。

妖怪らしさが足りない」という感想にしても、逢魔時の時点でちらほら見掛けてはいたんだよなぁ。
自分としては十分楽しんだのもあってあまり気にならず、「確かに妖怪ものと銘打つにはちょっと足りないけど、乙女ゲーだからこんなものだろう。シリーズ1作目だし満足満足!」と思っていました。
それが今回の百鬼夜行で「足りない!圧倒的に足りない!」となり、他にも細かい部分に引っかかり続けるうちに世界観設定の甘さに耐え切れなくなってしまった。逢魔時は今でも好きなままですが、シリーズ通しての評価は大幅に下方修正しました。
そもそも妖怪とは「恐ろしくて不気味だが、人間より自然に近く、何処かユーモラスなもの」であり、そこが魅力だと思っているんだけど、百鬼夜行の面々はどれにも当てはまらなかった。自分たちに力があるのをいいことに、力のない他者を見下し虐げる、嫌味で傲慢な人間たちにしか見えませんでした。
これが怪談ロマンスシリーズのスタンダードな世界観なら、黄昏時以外の作品はもう遊ばなくてもいいかな。
特に次作は個人的に抵抗を覚えた「死神」設定がメインで、ストーリーも特に惹かれないので、購入は見合わせる予定です。
自分がこのシリーズに期待してたのは妖怪学園ファンタジーであって、西洋死神ファンタジーじゃないんだ!
「細けぇこたぁどうでもいいんだよ」レベルに開き直れるようになったら百物語は遊んでみたいが、その場合も記録はつけないだろう。

他のQuinRose作品にはちらほら気になるタイトルがあるので、今度はそちらに手を伸ばしてみたいです。
アリスシリーズも新装版が出たことだし(まだ買ってない)完結まで頑張って追いかけたい。
アラビアンズ・ダウトも気になるが、RPG要素のあった前作と違い、完全ノベルゲーになってしまったようなのが残念。
ノベルゲーはお話が全てなので、もしアラダウのシナリオが百鬼夜行レベルだったら……と思うとなかなか予約する勇気が出ない。
お話さえ良ければノベルゲーも歓迎だけど、初期のようなゲーム性がある作品もまた出て欲しいです。
ミニゲームは正直もういいよ!(笑)

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